いつかシダになる日

私が移住したきっかけは、「日本シダ植物標準図鑑」全2巻を購入することに始まる。

きのシダの家宝
日本産シダ植物標準図鑑(全2巻)
勤めていた会社を辞めると決意したことをきっかけに、「そろそろ自分の好きなことを生業にしたい」という気持ちになっていた。誰かの責任や、何かのせいにして、仕事を嫌いになることに、いい加減うんざりしていたからだ。子どもの貧困に課題意識があって、新卒からこだわって関連の仕事をしてきたけど、まずは、自分自身をハッピーにして、身の丈にあった範囲で活動する方が、正しいように思えたからだ。(この話は長くなるのでまたいつか)

「私の好きなことって何だろう?」

と、その頃に参加していた小商塾(セミナー)で、しっかり向き合う時間をもらった。

頭にふと浮かんだことが、シダ植物だった。学校関係の仕事をしていた頃、子どもたちの前で自己紹介に「シダ植物が好きです」と冗談まじりに、でもわりと本気で話していたこともある。グルグルの芽が好きで、フワ〜っと広がっていく葉の様子が、植物なのに動物らしさがあって好きだ、という話をしながら。

好きなものっていうは、気づかないうちにそばにあるものだ。私の場合は、園芸好きな母が“アジアンタム”を毎回枯らしてしまっていたことがスタートだったりする。社会人になって一人暮らしの部屋にグリーンが欲しい、と思いたち、園芸店で購入したのがシダ植物のアジアンタムだった。きちんと育て方を調べ、様子を観察しながら水やりをして育てていると、なんとごきげんに育つこと。「母にできなくて私にできる」そんな嬉しさもあったのだろう。

とにかくシダを描く
オオタニワタリ、アジアンタム、ブルースター、ミツデウラボシ
そんなことを思い出して、私は「シダ植物」の絵を毎日1枚描き、SNSで公開するようになった。初めは、シダ植物と分かりやすい葉っぱを公園に行ってよく観察していたけど、もっとよく観察したくて、園芸店で購入するようになった。「公園から採取してこればいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだけど、当時の私はまだ純粋で(笑)、シダをちぎることができなかったのだ。でも、園芸店にたくさんのシダがあるわけではなく、種類は限られていたので、結局はハンドブックを購入し、野外でシダ探して観察したりした。

毎日ポストカードを描いた。描いている様子を動画に撮ったりして、楽しんだ。けれど、それはすぐにネタ切れで止まってしまった。シダ植物は、細かな微妙なちがいがあったりして種類が豊富なのだけど、種類が判らない。。「もっとたくさんのシダ植物を詳しく知りたい!!」という願望がむくむくと育ち、ついに、「日本シダ植物標準図鑑」の購入を思い立った。

シダ植物は、“日本各地に”という大袈裟なものではなくて、日々の暮らしでその辺に生えている植物だ。「え?これもシダ植物なんだ!」「葉っぱの形が可愛い」「いろんな色があるなあ」など、よく見ると身の回りにたくさんあることに気づく。私はこのワクワクをたくさんの人たちとシェアしたいという気持ちになっていた。なんでもない日常で、「これはシダ植物だ」という発見は心にゆとりができたり、それを誰かに話すことで、ほっこりした時間が流れる。

そうして、図鑑を購入することと、シダ植物を知ってもらうことの2つの目的をもって、クラウドファンディングを活用して人とのご縁を集めることにした。おかげさまで、たくさんの方にご協力いただき、図鑑を手にすることができ、新しいご縁もたくさんいただいた。

実は、吉野山に来られたのは、この図鑑クラウドファンドの協力者である山伏女将に感謝とお礼を渡しに来たことがスタートなのだ。実は、まだ1年ちょっと前の出来事だったりする。

新しい大図鑑を手にしてからは、ますます行動が活発になった。図鑑には、生息範囲の地図が記されていて、まだ見ぬシダたちを見たいという欲望に駆られ、月に1回程度のペースで紀伊半島を中心に観て回った。しかし、週5日働きつつ残りの2日はシダを観に行く生活が続くと、いっそのこと、シダ植物がたくさん生えているところに住みたい・・・と思いはじめ、トントン話で移住が決まったのだ。たくさんの方々に応援していただき、こうして今、吉野に住まわせてもらっている。シダを観に、紀伊半島、四国、九州へ行きやすい奈良県の吉野町だ。

さて、そんなこんなで住み着いた吉野で、シダ図鑑きっかけでお友達になれた山伏女将と一緒に、11月1日に、“日本の本物のハロウィン”をテーマに、イベントを運営させてもらった。

吉野川の向こう(大和上市駅側)から吉野山の妖怪大好き山伏女将が営むKAMーINNへ、あの世とこの世が入り混じる逢魔時(日の入り)の到着を目指して、妖怪行列をする。

山伏女将は妖怪が大好きで、常々、コスプレ祭りのおふざけハロウィンではなく、もっとも日本文化らしい形で、死者や目に見えないものに感じとることを大事にするハロウィンをしたい!という熱い想いをもっている。私も、古から自然と人間が交差する修験道のはじまりの地と言われている吉野山だからこそ開催する意味があるのではないか、と個人的な考えもあり、あと数人の賛同者も一緒にになって実現できた。当日は、参加者、出店者の方、スタッフ、地域の方々のお力添えもあり、無事に楽しく開催できたことがとても嬉しい。

Crosspotさんの妖怪ホットドッグCrosspotさんの妖怪ホットドッグ

そして何より嬉しかったのは、つ、ついに!!「私はシダになった!」

シダを求めて名古屋から吉野へ来て、とうとうシダになってしまった。 額にヒカゲノカズラのベールをかぶり、首に巻くというシダまみれ具合。1日中シダを肌に感じることができる最高の衣装である。ちょっと 洋風ではあるが、“妖怪”としてみなさんから認めてもらえた。よし。

「今から来年が楽しみ!」という声も 早々にいただいている。私もである。

会の目的を大切にしつつ、より多くの方に楽しんでもらい、私たち自身も楽しいイベントにしていけるといいなあ。

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